暖房には室内全体を暖めるだけでなく、培地加温(冷却)など局所暖房や冷却により、以前より少ないエネルギーでの植物栽培や周年生産が可能になります。こうした環境制御技術は植物工場など閉鎖された空間が得意とする分野となります。
土壌を温めて栽培期間短縮 ナノカーボンで新技術開発
最先端技術の炭素素材「ナノカーボン」を使って畑の土を温めるヒーターを、さいたま市のベンチャー企業が開発 した。畑に埋めて土壌を直接温めることで野菜や花の栽培期間を短縮したり、収穫時期を調整したりできるという。七月から畑で実験を行い、効果を検証する。 (岡本太)
開発したのは、さいたま市西区の製造業「コンテックス」(新田栄一代表)。ナノカーボンに電気を通すと、発熱効果を持つ遠赤外線が出る特性を生かし、熱媒体となる樹脂と組み合わせて板状のヒーターを作った。
同社によると、同製品は約五十度まで加熱が可能で、電気ストーブなどで一般的に使われているニクロム線での発熱に比べて、必要な電力を半分程度に抑えられる。樹脂製のため利用方法に応じて形や大きさを自由に変えられるメリットもあるという。
一四年に完成した試作品は、加熱のために必要な電力が大きすぎて「まだまだ勝負できるレベルではなかった」が、その後約一年かけてナノカーボンと樹脂の組み合わせ方を研究。必要な電力を試作品の約三分の一にまで下げることに成功した。
同社は七月から、先端農業に取り組む国内企業とともに、九州の畑で約一年かけて実験を行う予定。新田さんは「最大の目標は農産物の安定的な供給に つながる技術の確立。改良を重ねて、世界の食糧危機の解決につなげたい」と話す。またヒーターを豪雪地域の民家の屋根に敷いて雪下ろしの負担を軽減した り、魚の養殖用のいけすに設置して水温調整に利用したりすることも検討している。
◆県、補助金で企業支援
県は2014年度から県内外の企業に補助金を出し、ナノカーボンを使った新技術の開発を支援している。コンテックスのヒーターのほか、高い耐久性を持つゴムタイヤや摩擦に強い塗料の試作品がこれまでに完成した。
県は先端産業に取り組む県内外の企業を支援することで、将来的に技術や工場を県内に集積したい考え。14年度はナノカーボンを使った新素材の開発に、上限50万円の助成制度を創設し、24件に補助金を出した。
このうち長野県のゴム製造会社はナノカーボンの高い強度を生かし、金属より熱や圧力に強い産業用ゴムタイヤを開発。地下資源の発掘現場でこれまで金属製だった機械部品の一部として、すでに試験的に導入されているという。
茨城県の会社は摩擦に強い塗料を開発。主に工場内の設備向けに、すり減りにくい塗料として製品化を想定している。
2年目となる本年度は助成対象に大学も加え、補助金額を上限2000万円に拡大した。岡山大と東京工大、県内企業が合同で、軽くて電気抵抗の少ない「ナノカーボン電線」の開発を進めている。